MINI BLOG

2016.08.30公開 / 2018.09.17更新

ミニ誕生から黄金時代<’60年代> 〜ミニの歴史と時代背景〜

今回からスタートする新企画!クラシックミニ好きなら知らない人はいない「塾長」、「ゴーリー田代」でおなじみの元ミニフリーク編集長 田代基晴さんをライターに迎え、クラシックミニの歴史や背景、特徴から裏話まで!?ミニの世界にどっぷりハマれるコラムを全12回に渡りお届けします。記念すべき第1回目から第4回まではミニの歴史について。60、70、80、90年代をそれぞれの時代背景と交えながら、クラシックミニ41年の歴史を紐解いていく完全保存版アーカイブです。

 

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エポック・メイキングだったミニ 

ミニがデビューしたのは1959年。今を遡ること半世紀を超える。もちろん、当時も自動車の生産はされていたので、ミニの登場自体がことさら特別なこととも言えないのだが、特筆すべきはミニによって新しい乗用車の時代が切り開かれたことだ。

 

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ミニの斬新さはいろいろな資料でも紐解けるだろう。コンパクトFWDの先駆者としてのポジションは揺るぎないし、そのために盛り込まれたアイディアの数々は知れば知るほど感心すること然りだ。詳細な内容は、今後の掲載で一歩一歩お話ししていくことにしよう。

 

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 そして、もうひとつ大切なことは、ミニが登場以来40年もの年月、基本設計を大きく変えることなく、その愛らしい姿のまま生産された事実。それは、何にもましてミニというクルマの設計思想が今の世にも対応できるだけのポテンシャルがあったということ。いや、50年も前にそんな自動車を作り出してしまったことに秀逸なヒストリーの源流があると思う。だからこそ、今も魅力に溢れているのだ、ミニは…。

 

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ミニを生み出したのは、筋の通った信念だった

さて、ミニのストーリーには時代の流れを見るに敏な人々が何人も関与している。その第一はミニの設計者として名の知られる『サー・アレック・イシゴニス』、天才と謳われる技術者だ。彼の信念は自動車は機能に優れていなければいけないということと、大衆の乗り物であるべき、そこに尽きる。

 

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 そしてもうひとり、BMCの会長『サー・レオナード・ロード』を欠くわけにはいかない。別会社に在籍していたイシゴニスを招聘し、小型大衆車を作らせた張本人だ。どんなに優秀な設計者だと称されても、畑がなければ芽は出せない。当初はイシゴニスを中核に大中小のサルーン設計を企てていたけれども、1956年のスエズ動乱に端を発する石油危機を機に、小型車の開発を最優先次項に据える英断を下した。経営の舵取りには信念があった。  

 

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三人目は『ドクター・アレックス・モウルトン』である。ミニベロファンであればその名も重々承知のことと思う。ラバースプリングの第一人者であり、ゴムという弾性素材が自動車スプリングには最適だと強い信念を持っていた。イシゴニスは以前より親交があり、ラバーサスペンションの採用にはかねてより共同作業の実績はあった。具体的にミニにはモウルトンが開発したラバーコーン、そしてハイドロラスティック・サスペンションを採用することによって、よりいっそうの小型化を果たすことになる。

 こうした奇才のトライアングルによって、世紀を超えた名車『ミニ』は誕生した。時代の流れを引き寄せるほどに魅力的な人間たちによってミニは作られたのである。

 

自動車が大きく変革しなければならない時期だった

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 デビューするにあたり、ミニにはBMCの母体となった『オースチン』社と『モーリス』社、それぞれのブランドを冠した名称が与えられた。『オースチン・セヴン』そして『モーリス・ミニ・マイナー』である。今でこそあたりまえの販売戦略ではあるが、バッジシステムと称された手法で車名と各々若干の意匠を変え、1959年8月に市販された。  

それぞれの名称は、イシゴニスがモーリス社在籍時代に設計し、戦後の英国を代表する大衆車として大きな成功を納めた「モーリス・マイナー」、そして戦前からオースチンの主力車輌だった「セブン」にちなんだネーミングだった。それほどの世襲をもって期待された小型車だったことは想像に難くないし、見事にその役を担ったことは、我々も歴史を伝え知る者として、証人のひとりである。

 

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 とはいえ、ミニが登場した当時のモータリゼーションを想像しようにも、いかんせん時間が長く過ぎている。往時を幼少の記憶として辿れるのも、もはや父母、祖父母の世代だ。現実的には、今我々が目にしている交通事情から思い浮かべるのも難しく、まさに隔世の感である。たかだか半世紀。しかし、この時間は工業製品が変容するには充分すぎる時間である。 

 

 自動車発展の歴史まで紐解くとなると大事になってしまうので、サックリと。ミニがデビューした’50年代から’60年代への変わり目は、アメ車はどーんと大きくアールデコなテールフィンの時代、ヨーロッパではポルシェは356、シトロエンが2CV、フィアットは2代目の500、といった華やかなラインアップだった。この多様性は自動車が大きな変革期を迎えていたことを示唆するのであろう。その波は戦後復興の日本にも波及し、国産車はオースチンのエンジンを登用したダットサン・ブルーバード、ようやく純日本製を果たしたトヨダクラウンが登場して数年といった頃だ。

 

 さて諸兄は、現代の自動車を見ながら、往時のミニのポジションをどのように感じるであろうか。

 

横置き前輪駆動の優位性はモデル開発にもあった

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 イシゴニスの着想、横置きFWDのコンパクトサルーンのパッケージはここに実現された。それは長らく重厚長大だった自動車産業の大きな変革の指針となったのである。つまり、その後の乗用車コンストラクションがFWD主流に進んだことを思えば、ミニの功績は計り知れないのである。冒頭でも記したように、技術的な解説であっても多くの人が楽しめると思うので、じっくり時間をかけて話してみたい。また別の機会を楽しみにして欲しい。

 

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 さて、ミニの構造。モノコックボディにエンジンやギアボックス、サスペンションなどの機構をサブフレームを介して装着する手法は、バリエーションモデル開発の優位性にも繋がった。前後の車軸が、各々のフレームで独立しているからだ。その結果、’59年のデビューからわずか5ヶ月後の’60年初頭にロングホイールベースの商用車、『ミニ・バン』が登場する。生活に根ざした大衆車としては必須のモデルラインアップであることに加え、廉価な車輌価格や税制の優遇もあって若者層が目敏く飛びついた。それは、ミニ認知のエクスプロージョンの大きな要因ともなったのだ。

 

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 その年に『オースチン・カントリーマン』、『モーリス・トラベラー』のエステートモデルを発売し、1年後の’61年にはピックアップがラインアップされる。驚くべき開発スピード、ロングホイールベースモデルの拡充は、間違いなくミニのセールスに大きく拍車をかけた。今となっては遠く、生産が終了した過去のモデルだが、その人気は衰えることなく現在もなお多くのファンを楽しませてくれている。

 

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’60年代、小兵の快進撃は留まることを知らなかった…

 1960年代はミニの黄金時代と言える。エボリューション・モデルのクーパー、そしてクーパーSが登場し、コンペティションシーンを席巻。かの有名なモンテカルロ・ラリーでの総合優勝という金字塔を打ち立てたのは1964年のことだ。

 

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あるいは一方で、高級サルーンバージョンの『ライレー・エルフ』、『ウーズレイ・ホーネット』も販売された。ライレーとウーズレイも英国では伝統のブランドである。イメージ戦略も講じつつ、先のロングホイールベースモデルとともにバリエーションを拡大、そうして繚乱なラインアップが構成されたのである。

 

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 サルーン、エステートは’67年にマイナーチェンジして、一斉にMk-IIへと進化する。この機を持って、初代モデルはMk-Iと呼ばれ、後世でリスペクトされる存在となるのである。ラインアップの詳細は、また別の機会に紹介しよう。

 

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ミニ誕生のストーリーは多く語られているので、書籍でもインターネットでも、その気になれば存分に調べ上げることができると思う。まぁ、本稿がその入口になり、ミニ・クラシックによりいっそうの興味を持っていただければ幸い。

 

 

WRITER PROFILE

 

_GP21029田代(G)基晴(たしろ・ごーりー・もとはる) ミニより1歳年下の1960年生まれ。ミニ・フリーク誌のスタートから、はや四半世紀…、どっぷりミニ漬けの人生を過ごす。スクーバダイビングや自転車、カヌーや登山、アイスホッケーにまで手を出してきたシアワセものだ。制作全般が生業となるが、自称フォトグラファーである。現在は相模湖にスタディオを構え、趣味の伝道師を目指して精進している毎日。 会社はこちらGP・JUNOS

 

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