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MINI BLOG

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2021.04.16公開

2021.04.16更新

BMWミニ・クーパーDクラブマンに乗って 桜のトンネルを探しにいった

強い春風の吹いた翌朝、ミニ・クーパーDクラブマンで桜の名所を回る、ショート・トリップへ。
すでに桜は散りかけていたが、最後に訪れた埼玉のとある堤防で、見事な桜吹雪に巡り会うことができた。

mini_clubman

 

いにしえの桜の記憶

いちばん古い桜の記憶は、クルマのリア・シートからの景色だった。
保育園へ向かう途中の、古い神社の横の坂道。

mini_clubman

 

チャイルド・シートどころかシート・ベルトの規制すらない、おおらかな時代のことだ。
後席の足元は幼い弟や妹がはまってしまわないよう、古い毛布が詰め込まれ、まるで小さなベッドのようになっていた。

弟妹と一緒になって寝転んでいると、カーブでクルマが揺れるたびに身体が転がり回って、きゃっきゃっと面白がったものだった。

 

mini_clubman

 

「ほら、桜のトンネルみたいでしょ」

道の両側にあった桜の下を走りながら、母が後ろの子供たちを一瞬振り返る。
もはやその表情は、記憶の彼方だ。
けれど、桜色に染まっていた空を、今も覚えている。

保育園時代の記憶として残っているのは、もう桜と、母の言葉だけかもしれない。
あのトンネルは、まだあるのだろうか。

風の強い日が続き、東京の桜がほとんど散ってしまったある朝。
僕はミニ・クーパーDクラブマンに乗って、桜のトンネルを探しに出かけた。

 

不思議な愛されキャラだった旧型クラブマン

ミニ・クラブマンとはじめて対面したのは、2015年秋の東京モーターショーの会場だった。

 

mini_clubman

幼い頃の桜のトンネルを思えば、つい最近なのだけど、もうそんなに前のことなのか、とちょっと驚く。

あれは一般公開日で、ドアを開けて、自由に乗り込むことができるようになっていたせいもあり、たいそうな人気ぶりだった。
長い順番待ちの列に並び、ようやく座ってじっくり眺めて思ったのは、これくらい新旧で様変わりしたクルマもなかなか珍しいな、ということ。

 

思えば旧型ミニ・クラブマンは、不思議なクルマだった。

 

初代ミニクラブマン(R55)

初代ミニクラブマン(R55)

 

基本はミニ3ドアの全長を延ばしたステーション・ワゴンなのだけれど、観音開きのドアを車体の右側と後ろ側に加えた、左右非対称構造を採っていた。
右側はクラブ・ドアと呼ばれ、たしかに開口部は大きいが、後席への乗り降りがし易いとは言い難かったし、まして左側通行の日本では、恩恵は少なかった。
でも、荷室は広く、3ドアよりずっと使える空間になっていた。
Cピラーやバンパーの一部をかつてのカントリーマンやトラベラーのウッド・フレームを模して、車体色とは違う塗り分けにするなど、ちょっとフツウとは違うミニ、という立ち位置で人気者になった。

 

真横から見ると、長い車体はまるでダックスフントみたいで、けっして3ドアのようにバランスは良くない。
ぶさいく可愛い、とまでいわないけれど、けっしてハンサムじゃない。
なんとなく憎めない存在。
それが旧型のミニ・クラブマンだった。

 

隙がなくハンサムな今のクラブマン

それに比べると今のクラブマンは、どこにも隙がなくハンサムな、いわば王道を行くスタイルだ。
その秘密は、車体にある。

 

ベースになったのは、前輪駆動のBMW2シリーズ、アクティブツアラーやグランツアラーと共通の、ワイドな“UKL2”と呼ばれるプラットフォーム。
そう、現在の3ドア/5ドア/コンバーチブルのミニが使う、ナローな“UKL1”とは違うプラットフォームなのだ。
全長4270mm、全幅1800mm、全高1470mmの車体サイズは、3ドアより435mmも長く、75mm幅広く、40mm高い。
けれど実車を前にすると、不思議なことにさほど間延びした感じはしない。
むしろUKL1ベースの小さなミニたちより、幅が広がったおかげでボンネットが分厚く見えず、顔つきのバランスがいい感じだ。

 

クラブマンの象徴ともいえる観音開きのリア・ハッチは継承されたが、ドアは4枚の左右対称のごくフツウのもの。
ちょっとつまらないが、後席の乗り降りは旧型とは比べものにならないくらい楽だ。
トランクの容量は360ℓ(VDA)で、バックレストを倒した状態なら1250ℓまで拡大する。

 

これはもはやフォルクスワーゲン・ゴルフに迫る数値である。
いやはや隙がない。

 

mini_clubman_F54

 

周到な日本仕様のラインナップ

今のクラブマンは、ラインナップの構築も隙がなかった。
まずは2ℓ4気筒ターボで192psのクーパーSと、1.5ℓ3気筒ターボで136psのクーパーの2種類のガソリン・エンジンが導入された。
前者は8段ATだが、後者は当初は6段ATとの組み合わせで、後のマイナーチェンジで7段のデュアルクラッチ式自動MT(DCT)に変更されている。

 

ディーゼル・エンジンは2ℓ4気筒ターボのみで、チューニング違いで150psのクーパーDと190psのクーパーSDの2種類が上陸。
こちらはともに8段ATとの組み合わせとなる。
クラブマンは基本、前輪駆動なのだが、クーパーSは4輪駆動も選べたし、300psオーバーになるジョン・クーパー・ワークス系のモデルはすべて4輪駆動だった。
残念ながらディーゼルと4輪駆動の組み合わせはないが、そこは兄貴分のミニ・クロスオーバーが請け負う

 

見事に仕様が被らない、周到なラインナップだったのだ。

 

過不足ないファミリーカー

mini_clubman

 

隙がないのは見た目とパワートレインだけではない。
前席に座った感じはほとんど小さなミニたちと同じだが、後席は別物だ。
車体がワイドになったおかげで、室内の横方向も100mmほど広がっているが、このわずかな拡大が効いている。

 

実は小さなミニたちの乗車定員は、3ドアとコンバーチブルは4人、5ドアはクラブマンと同じ5人となっている。
でも、5ドアの後席の中央足元にはドリンク・ホルダーがあって実は脚の置き場がないのだ。
5人がちゃんと座るなら、最低でもクラブマン。

 

小さいクルマが欲しい、という人にはクラブマンは向かないかもしれない。
でも、どこから見てもミニである上に、過不足ない広さの荷室と居住性を備えたファミリーカーが欲しいなら、3ドアよりも5ドアよりもクラブマンを選ぶべきである。

mini_clubman

 

ファミリーカーとしてミニを選ぶならクラブマンがイチオシだが、パワーユニットのイチオシは、2ℓディーゼルだ。それもロー・パワーの150psのクーパーDがいい。

安価な軽油が燃料ゆえの経済性に加えて、アイドリングのすぐ上からしっかりトルクが出ているし、8段ATとのマッチングは上々で、中間加速もけっこう鋭く、意外なほど速い。

 

だから桜並木を求め、早朝から赤坂、市ヶ谷、九段下の桜のスポットを回り、昼過ぎに福山雅治の詩で知られる桜坂に辿り付くまで、ミニ・クーパーDクラブマンで混み合った都心をあちこち駆け抜けるのは、まったく苦痛じゃなかった。

 

とはいえ、残念ながら都内の桜は散りはじめていた。
桜のトンネルには、もう出会えないのだろうか。

mini_clubman

 

適度に硬派な感触

仕方なく、高速道路で一気に北上することにした。
街中ではやや耳障りだったエンジン・ノイズが、速度が上がるにつれて気にならなくなっていく。

mini_clubman

旧型のミニ・クラブマンは、スピードが上がると、特にコーナリング中に車体がよじれるような感触が伝わってきたけれど、今のクラブマンは遙かに車体が強固で、そんな感触はみじんもない。

 

電子制御式の可変ダンパーのない、機械式ダンパーのクラブマンに乗るのは初めてだけど、適度に硬派な感触とでもいえばいいのだろうか。
これなら少々元気よく走っても、助手席や後席の家族から不満の声は出なさそうだ。

 

mini_clubman

 

30分ほど走り続けて埼玉に入り、下道へ降りて河川敷に沿ってさらに北へ向かうと、急に視界が真っ黄色になった。
あたり一面、菜の花が咲いている。
しかもその奥に、見事に満開となった、桜並木が続いていた!

 

mini_clubman

風が吹く度に、吹雪のように桜の花びらが舞っている。
桜のトンネルには出会えなかったけれど、母と一緒にこの景色を眺めたら、彼女はどんな表情を見せてくれるだろうか。

ミニらしい愛らしさと走りと、ファミリーカーとして申し分ない実用性を兼ね備えるクーパーDクラブマンは、幸せな家族の笑顔を連想させるクルマだ。

mini_clubman

 

Editor : 上田純一郎(Wedge! Editorial Works)
Photographer :  髙木 亮

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